『玻璃の天』北村薫 [北村薫]
2007.08.31読了
『街の灯』の続編シリーズ。
北村さんの清潔で凛とした文章は、この昭和初期の女学生を描くのには極めて適していると思う。
生硬で厳しく理想を掲げてプライドも高く、そしてまだ世間を知らない。
「円紫さんと私」シリーズの“私”や、『SKIP』の真理子を思いだす。
閉塞していく日本の状況の中で、己の目と耳と感覚を信じ、正しいもの清冽なものを求めていく、その姿は美しい。
『街の火』よりも、少し成長している英子を発見できる喜び。
謎の運転手ベッキーさんは、そんな英子を見守り、文字通り守る。
そして折に触れ、英子が“お嬢様育ち”であるために陥りそうな間違いを、さりげなく防いでいく。
そこには、優しくもあり同時に冷静沈着でクールな視線がある。
ラストでベッキーさんの正体が明かされる。
ここでの動揺し苦悩するベッキーさんの姿が好きだ。それでもこの人は自制心を忘れない。最後まで己を律していく。
背筋をピンと伸ばし運転手の制服に身を包んだこの麗人は、崇高だ。
帯にも書かれたこの一節。
「わたし達が進めるのは、前だけよ。このことを胸に刻んで、生きていくしかないのだわ。」
たかだか15,6歳の小娘にこう言われてしまっては、何も言うことはない。
この言葉を心の中で繰り返すと、何だか熱く静かなものが体中に満ちてくる。
決して忘れられないけれど胸の奥深くしまっておかねばならないもの。だが、その炎は消えることはない。
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2007-08-31 23:48
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